151 2026年05月個人的な話で申し訳ないが、このところ料理人達は私の無茶振りに辞易しているらしい(笑)。「文化は無茶振りから生まれる」とばかりに色んな課題を出すからだ。それを名のある料理人達はある種楽しんでいる節もあるので、なかなかやめられない。今回もそんな無茶振りの一つかもしれない。堺・綾之町で「ヤドリ木」を営む津田瑞穂さんは、本業がフードコーディネーター。その合い間を縫って綾之町東商店街内で焼き菓子のテイクアウト店を運営している。このスイーツがなかなか評判らしく、一度覗いてみたくなった。行くからには「名料理、かく語りき」の取材も_。という事で味噌や金山寺味噌を使ってスイーツを本取材用にと、スイーツづくりをお願いしておいた。味噌で焼き菓子を⁈なんてこれも無茶振りだろうか?
ヤドリ木 津田瑞穂
(フードコーディネーター・「ヤドリ木」店主)
「赤だし味噌は、
コクがあって滑らかな食感。
発酵食品同士なら合いそうと、
チーズテリーヌを作ってみました。
『赤だし』の配合バランスを調えたら売れそうな逸品になりました。」
フードコーディネーターが営む焼き菓子の店


フードコーディネーターなる職業がある。AI検索すると、「食に関する企画・レシピ開発・撮影用の料理演出・商品やメニューのプロデュースなどを行い、食と人・企業・メディアを繋ぐ専門職」との説明になるらしく、いわば食関係の裏方的存在。企業・マスコミ・飲食店と色んなフィールドで活躍している人を指す。20~30年くらい前のカタカナ職業華やかなりし時代には、女性の憧れの仕事として持て囃された。何を隠そう、私もその時代には辻学園TEC日調でフードコーディネーターセミナーの講師をしており、何人かの女性フードコーディネーターを世に出した実績がある。今回は、そこから育ったフードコーディネーターのひとり、小泉麻衣子さんからの紹介での取材だ。小泉さんが一緒に仕事をしているフードコーディネーターの津田瑞穂さんが堺で焼き菓子の店をやっており、「そこが面白い」というのだ。当然、津田さんはフードコーディネーターが本業。ところが週に1~2日だけ阪堺電車・綾ノ町駅すぐの商店街内でスイーツ店を開いている。「これはなかなか興味深い」とばかりに小泉女史から紹介してもらい、堺の「ヤドリ木」に取材に行く事にした。「ヤドリ木」は前述したように阪堺電車・綾ノ町駅を降りてすぐの綾之町東商店街にある。ザ・昭和のようなノスタルジックな商店街で、俗にいうシャッター商店街になっている。津田さんの話では肉屋など数軒が商売をしているが、最近は若い人が店を開いたりして商店街を盛り立てようと躍気になっているのだとか。「ヤドリ木」もそんな中の一軒で、同じ建物には工務店やギャラリーも入って同床異夢のような形で商売を行っている。


「ヤドリ木」のオーナー・津田瑞穂さんは岸和田の出身。大阪芸大在学中にアルバイトしたのがきっかけで食の仕事に就きたいと思うようになった。ならば就職は飲食店へ。そこで料理を作る仕事をしていたという。ところが数年でその仕事にも挫折。一旦は「違う事をしたい」と花屋で働き、花束を作ったりしていたようだ。そもそもが芸大でデザインの勉強をしていたので花束を作ったりするのもセンスがあったと思われる。街の花屋で働いてはいると、かつての思いがムクムクと頭をもたげ、また「飲食の仕事に就きたい」と思いを巡らした。津田さんは、以前資格なしで働いていたので今度は飲食店に勤めながらも勉強をして調理師の資格を獲った。当時はフードコーディネーターなんて仕事があるとは知らなかったので、単に調理師の資格を有して厨房で働こうなんて考えていたのだろう。



やがて津田さんは、結婚をして京都へ行く。そこで出会ったのが広告会社で、そこでは食専門のスタジオを設けていた。「自宅の近くに撮影スタジオがあって興味を抱いたんです。未経験でもいけますか?って聞いたら入社させてくれて。京都でフードコーディネート的な仕事をやるようになったんです」と話す。そのスタジオでは9年も務めていたようだ。津田さんは、なかなか勉強熱心でコーヒーについても学ぼうと、焙煎に関しても研究。堺にあったコーヒーの焙煎所で学んでいる。
スタジオで働いていると、またまた飲食の仕事がしたくなって来る。そこで週に一回間借りしてカフェをやるように。スタジオにも勤めながらの二足の草鞋(わらじ)というわけだ。「毎週火曜日に堺でカフェを始めました。もともと焙煎を勉強していた所でもあったので気心知れていましたし、勤めながらのカフェ稼業は大変でしたが、なかなか面白くもあって都合3年程そんな暮らしをしていたんですよ」。間借りでカフェを営んでいると、コーヒーのみでは商売にならないと思ったようでスイーツの方にも手を出すように。「顧客がスイーツを欲していましたし、独学で勉強していると面白味も出て来たのは事実です。そうこうするうちに私の作ったスイーツが売れるようになってきたんです」。3年前に津田さんは一念発起し、会社も辞めて堺に自宅を移した。目的はフードコーディネーターとして独立を果たし、堺で店を始めるためである。
現在、「ヤドリ木」は、土曜日のみの営業。11時から16時くらいまで開けており、売れたら閉める_、つまり売り切れごめんのスタイルを貫いている。フードコーディネーターとの兼業なのでいつ企業からの仕事が舞い込むやもしれず、一応インスタグラムで営業日を出しての開業日を顧客に知らせての営業となっている。量が3~4倍になったら作られないし、仕事がハードすぎても身体にダメージを受けてしまう。ならば週に一回の開店でも仕方がないかと思っているようだ。「お陰様で撮影の仕事も増えました。ここ3年で店の認知もできて多くの人が焼き菓子を求めてくれるんです。月四回の営業でも赤字にならないような商売になっています」と笑っていた。「ヤドリ木」は焼き菓子とサンドイッチのテイクアウト店で、「発酵バタースコーン」や「ジャスミンスコーン」「キャロットケーキ」などが主力商売だ。「甘いものばかりだと顧客が限定されてしまうので」と、一種類だけサンドイッチを売っている。「ローストポークとキノコのバゲットロールサンド」があったり、「ハーブ蒸し鶏とキャベツのマリネのバゲットロールサンド」があったりと、挟む具材を替えて週ごとにアレンジしているそう。とにかくフードコーディネーターが作るだけあってなかなかこだわりがあっていい。そう思いながら焼き菓子とサンドイッチを味わった。
金山寺味噌や赤だし味噌からスイーツが誕生

さて、私は名うてのフードコーディネーターにもいつものアレをしようとしている。私が「ヤドリ木」に行く日を見計らって予め湯浅醤油・丸新本家から商品を送っておき、それを使ってスイーツを作らせようと計画していたのだ。よく周囲の料理人達が私の無茶振りを冗談めかしに「被害者だ」と訴えているが、今回もそれに当たるのかもしれない。醤油であれ、味噌であれ、甘くはないのでスイーツ素材には不適切。甘みがあるといっても金山寺味噌でケーキを焼くなんて聞いた事がない。その甘みと砂糖の甘みは別物なのだから。それらでスイーツを作るといった所で果して湯浅醤油と丸新本家は何を送ったのだろうと恐る恐る津田さんに「送って来た商品で何かできましたか?」と尋ねてみた。すると、「三品ほど考えました」とさらりと応えてくれたのだ。流石はフードコーディネーターである。無を有にする仕事をしている人は強いと思ってしまった。津田さんが本取材に際して作っていたのは、①青唐辛子金山寺のバターサンド②赤味噌と山椒のチーズテリーヌ③ローストポークと春野菜のサンド カカオ醤とバルサミコソース」の三つである。①には最近発売された「青唐辛子金山寺」が、②には、「赤だし」味噌が、そして③には「カカオ醤粒タイプ」が使われている。③はともかく、①と②は金山寺味噌と赤だし用の味噌が用いられており、私が期待した通り甘くもない(砂糖気がない)素材で見事スイーツを作った事になる。名探偵「ガリレオ」ではないけれど、「実に面白い」と言わざるをえない。


まず、「青唐辛子金山寺」味噌を用いた「青唐辛子金山寺のバターサンド」であるが、これはクッキー生地を焼く所から始まる。卵白に熱した砂糖を入れて混ぜたイタリアンメレンゲと無塩バター、ホワイトチョコレート、くるみ、「青唐辛子金山寺」を混ぜ合わせてクリームを作っている。それを前述のクッキーで挟んで一晩くらい冷蔵庫で寝かせる。津田さんによると「クリーム状なのでバターが固まるまで冷やしたい」そう。それが丁度一晩くらいかかるのだろう。無塩バターの風味がいきて、そこに金山寺味噌が甘みが加わる事で塩キャラメルのような甘っじょっぱいバタークリームが出来上がる。津田さんは、「青唐辛子金山寺」が届いた時にキュウリに載せて食べてみて甘いのにピリッとしたアクセントがあって面白い商品だと感じたようだ。これまで金山寺味噌は幾つも味わって来たが、青唐辛子の入ったタイプは初めての体験だった。それに「柚子が入っているので使うならコレだ」と直感した。すんなりと発案したそうだが、作ってみると思いの外うまくまとまっていた。当初はフロランタンに載せる案もあったが、しっくり来ず、クッキーで挟む形にした。「柚子香と柔らかい感じが金山寺味噌で作ったバターサンドによく合った」との感想を述べている。食べると、金山寺味噌の甘みがうまく表現され、甘じょっぱく舌に伝わる。くるみは食感をつける役割を果たし、ほんのり青唐辛子の辛みが利いていていい。よく混ぜてはいるものの、所々に金山寺味噌の中の野菜の欠片(かけら)が出て来るのもご愛嬌のうち。それを感じたとて、まさかバタークッキーのクリームが金山寺味噌から作っているとは夢にも思うまい。津田さん曰く「金山寺味噌は10g少なくてもよかったかも」。一晩寝かすと結構塩分が染みて来たのがその理由らしい。「青唐辛子金山寺を用いる事で塩味もあってパンチのあるクリームに仕上がりました。この手のものはクリームを部厚くせず、薄いクッキーで挟んだ方がいい感じになると思います」。聞けば津田さんは左党だとか。だからだろう、何となくウイスキーに合うような気がした。


二つめの「赤味噌と山椒のチーズテリーヌ」は「赤だし」味噌が使われている。同商品は、北海道の丸大豆と国産米、長崎の塩というオール国産素材で造ったもので、酸味と渋み、濃い塩分の豆味噌で造るタイプとは異なり、米味噌の関西風。塩分も8.6%と控えめで渋みや酸味が少ない。まろやかで深いコクと旨みが特徴である。津田さんは、「一般的な赤だし味噌はブツブツザラザラしているのに、これは滑らか。混ざり易いからクリームチーズと合わせると、きちんと混ざっていい雰囲気に仕上がるだろうと思ってチーズテリーヌにしようと思いついた」そう。クリームチーズに、生クリーム、サワークリーム、卵を加え、砂糖と「赤だし」味噌、それにちょっぴり日本酒を足して混ぜて作る。日本酒を少し用いるのは風味づけもあるが、チーズと味噌の繋ぎ役もある。混ぜながら丁寧に生地を繋いで作り、オーブンにて低温で湯煎焼きするように火を入れる。150℃で1時間ゆっくりと焼いて行くのだとか。そうすると、18~20㎝のパウンド型のチーズテリーヌが焼ける。ちなみにこのサイズを作るのに「赤だし」味噌を35g使用している。これくらいなら普段使いそうもない味噌で作っても味噌味噌した雰囲気を醸し出さないそうだ。「送られて来た『赤だし』は、滑らかな食感とコクが印象的でチーズケーキに合うなと思いました。プリンにしようかとも迷いましたが、チーズテリーヌにしてよかったと思っています。『赤だし』自体に塩分があるのでもう少し量を減らしても(30gでも)よかったかもしれませんね」と津田さんは振り返っていた。食べると、味噌を使っているのはわかりづらいかもしれないが、多く使用すると、味噌の主張が出てしまう。かといって量を減らすと今回の取材の主旨に合致しそうにない。その配合バランスが難しく、津田さんは一本作るのに30~35gだと答えを出したようだ。食べた後、味噌の塩分がチーズにマッチしているのがよくわかった。仕上げに粉山椒を振って出してくれたが、「赤だし」が利いた味には山椒がよく合う。「ケーキに味噌を使う事は余りありません。でも味噌もチーズも発酵食品なのでよく合うんです。仮りに『ヤドリ木』で出しても売れるのじゃないでしょうか」。山椒香がついて、これまたお酒のアテにいいかもしれない。津田さんも「コーヒーより、むしろ合わすとしたらウイスキーかも...」と言っており、何となく今日は酒に合うスイーツを楽しみに来た感じがする(試食に酒がないのは残念!)。



三つめは、「ローストポークと春野菜のサンド カカオ醤とバルサミコソース」だ。「ヤドリ木」で一種のみ売られているサンドイッチのアレンジバージョンだろう。豚肉にローズマリー、塩、にんにく、コショウをもみ込んで強火で四面焼いてローストポークを作る。ビニールに肉を入れて湯煎し、約70℃で1時間程熱を加えて作るのだ。その他、用いる具材は新じゃがとスティックセニョール。共に春野菜である。「ヤドリ木」では、評判の高い大阪市内のパン屋「ブーランジェリー ラボ フィセル」のバゲットを使っている。このパンも力強いから少々の事では具材に負けない。バゲットの間に自家製マヨネーズを塗ってローストポークに「カカオ醤」とバルサミコ酢で作ったソースを掛ける。そして焼いた新じゃがとスティックセニョールを挟み、その上側(パンの内側)に自家製マスタードバターを塗って挟むのだ。ここで本取材の重要ポイントになって来るソースは、「カカオ醤」とバルサミコ酢、赤ワイン、みりん、砂糖で作っている。とろっとするまでそれらの調味料を合わせて煮込むそうだ。津田さんによると普段この手のバゲットサンドイッチのソースを作る時は醤油とバルサミコ酢を合わせるらしい。今回は、「カカオ醤」ありきとして創作したので醤油の所を「カカオ醤」に置き換えてアレンジしている。「湯浅醤油から幾つかの商品が届いた時に『カカオ醤』を見てえらいのが来たなぁと思いました。これをお菓子に使うの?というのが正直な感想です。『ヤドリ木』ではサンドイッチを販売しているので、別にスイーツばかりでなくてもいいかと思い直し、ならば使えるかと方向転換をしてみたんです。『カカオ醤』は、文字通りカカオから造った醤油(醬)なのでチョコレートの風味があるものの、甘くはない。使ってみて食べているうちにその力強さが肉料理に合うと思ったんですよ。いつもの醤油を『カカオ醤』に置き換えてバルサミコ酢や赤ワインなどと合わせると、カカオの風味も伝わり、バゲットサンドに力強さが出たように思いました」と津田さん。確かに春野菜にもパワーがあって何となく元気になりそうなバゲットサンドだ。ソースには酸味が欲しいからバルサミコ酢を加えて味のバランスを調えた。「カカオ醤」の塩味とバルサミコ酢の酸味で調味されたソースが全体を引き締めている。津田さんが「パワーの結晶」と表現するだけあって新じゃがとスティックセニョールの選択もよかったように思える。これがレタスやクレソンなどの生野菜ならローストポークとソースに負けていたのではなかろうか。春野菜をチョイスし、焼いた事で負けない力が出て、全体的にパワーを感じるバゲットサンドに繋がったと思う。津田さんは「うまくまとまった。思ったより旨かった」と言っていたが、確かに二重丸をつけたい出来映えになっていた。


焼き菓子がもともと好きだったという津田さんは、三年前に「ヤドリ木」を開くにあたって持ち帰り易い商品をと、試行錯誤しながら色んなスイーツを作って来た。その代表格が三種のスコーンであり、キャロットケーキ、バナナローフ(バナナのパウンドケーキ)だ。店舗運営とフードコーディネーターの二足の草鞋は履き続けてはいるが、両立できるくらいうまく推移しているらしい。フードコーディネーターとしては、大手回転寿司チェーンのポスターや大手食品メーカーのパンフづくりに関わり、撮影現場で調理したり、スタイリングしたりと甲斐甲斐して働く様が、本取材を見ていたら想像できた。現在は動画コンテンツに興味があって将来はCMやドラマ、映画での撮影に携りたいようだ。「レシピづくりは本職なので、色んなジャンルの料理が作りたいですね」と語る。店名の由来は、間借りでカフェをやっていた事に端を発してつけたのかもしれない。「やどりぎ」とは、ヤドリギ科の常緑小低木で、榎や栗、桜などの枝に寄生する植物をいう。間借り店舗として寄生するのか、食品メーカーなどの仕事をサポートする意味で寄生するとしているのかわからないが、今日の商品からは、「寄生元から離れない」という力強さが見て取れた。パワーがあるサンドイッチとスイーツ_、それが「ヤドリ木」の魅力だろう。単に力強いばかりではなく、可愛らしさも垣間見られる。そんな作品を食して堺を後にした。小泉女史からの噂を聞きつけて綾之町まで来た甲斐があったのだ。
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<取材協力>
ヤドリ木
住所/大阪府堺市綾之町東1-2-8
TEL/なし
HP/ Instagramはこちら
営業時間/土曜日11:00~16:00(売り切れごめん)
※開店は土曜日となっているが、フードコーディネートとの兼業なので不確定。
基本的には週に1~2回の開店予定で、営業日はインスタグラム(yadorigi_coffee)で確認を。
休み/不定休
メニューor料金/
メニュー/ 発酵バタースコーン 300円
ジャスミンスコーン 380円
チョコチャンクスコーン 380円
キャロットケーキ 500円
バナナローフ 420円
筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。




















































